2024年12月15日 Satoshi Onodera

贈与税・相続税と関連したアメリカ不動産、セクション121活用の節税スキームを図解解説

アメリカ不動産投資への関心が高まっています。

全米不動産協会(NAR)の2023年度国際取引調査によると、外国人投資家によるアメリカ不動産取引は依然として活発で、特にニューヨーク、カリフォルニア、フロリダなどの主要州での取引が目立っています。

 

この動きの背景には、アメリカの魅力的な税制が大きく影響しています。

特に注目すべきは、不動産投資に関連する3つの重要な制度です。

 

①生涯贈与枠(最大40億円ほど)②年間贈与制度(年間250万円/人ほど)、そして③不動産売却時に7,500万円まで非課税となる2年ごと使える制度(セクション121)です。これらの制度は、日本の税制とは大きく異なり、適切に活用することで効果的な資産形成と世代間移転が可能となります。 *2024年12月現在の1ドル150円とした場合

 

重要であるのは、これらの税制メリットを最大限に活用するためには、アメリカの移住と適切なビザステータス・および永住権の取得が必要となる点です。

本記事では、非居住者として投資を始める場合から、投資家ビザ取得、そして永住権取得後の本格的な税制メリット活用まで、段階的に解説していきます。

また、日本の税制との比較も交えながら、具体的な節税効果についても計算例を示していきます。

 

*当社ではアメリカのNYにて不動産仲介を行うブローカー業を営んでおり、会計士や弁護士チームとも連携しておりますが、あくまで一般的な見解としてご理解いただき、お客様の個別ケースについては専門家にご相談いただくようお願いいたします。

 

日米の贈与税、相続税について

米国内国歳入庁(IRS)の最新データによると、アメリカの相続税・贈与税制度は、日本と比較して格段に柔軟な資産移転を可能にしていることがわかります。

 

まず両国の大きな違いを理解しましょう。

それは、アメリカの贈与税・相続税は統合されており、生涯にわたる一つの大きな枠組みとして管理されているのに対し、日本では贈与税と相続税は基本的に別々の制度として扱われているという点です

以下個別に日米の比較を見ていきます。

 

1. 日本での贈与の特徴
– 年間基礎控除110万円
– 相続時精算課税制度で2,500万円まで
– 教育資金贈与で1,500万円まで非課税
– 結婚・子育て資金の贈与で1,000万円まで非課税

 

2. アメリカでの贈与の特徴
生涯贈与枠13.61ミリオンドル(約20.4億円)という大きな控除額
– さらに、夫婦合算で27.22ミリオンドル(約40.8億円)まで拡大可能
– 年間贈与枠17,000ドル(約255万円)は別枠で活用可能
– 教育費・医療費の直接支払いは非課税

 

表でまとめると以下のようになります。

日米の贈与税制度比較

控除額以外に税額も大きく異なります。日米の相続税を具体的な事例で比較してみましょう。

 

例えば、5億円の資産を相続する場合を考えてみます。

 

日本の場合:
– 基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人数
– 仮に法定相続人が2人の場合、基礎控除は4,200万円
– 課税対象額:4億5,800万円
税率:最高55%の累進課税 (日本の相続税は国際的に見ても税率が高く、最高税率55%となっています)
– 概算税額:約2億円

 

一方、アメリカの場合:
– 基礎控除:13.61ミリオンドル(約20.4億円)
– 課税対象額:0円(基礎控除内)
税率:最高40%だが、この事例では基礎控除内のため非課税
– 概算税額:0円

 

この例からも分かるように、アメリカの相続税は基礎控除額が非常に大きく、日本と比較して税負担が大幅に低くなる可能性があります。さらに、夫婦の場合は基礎控除が2倍になるため、より大きな税務メリットを得ることができます。

 

非居住者への適用について

 

ここで重要な点は、これらの税制メリットがどのような条件で適用されるかという点で、皆さまもこの点が気になられていることと思います。

IRSのガイドラインに基づき、具体的な適用条件を見ていきましょう。例えば、このような条件が挙げられます。

 

1. アメリカ内の資産に関する贈与の場合
非居住者でも適用可能
– アメリカ内の不動産や株式が対象
– 適切な贈与税申告が必要
– セクション121の適用には居住要件あり

 

2. アメリカ外の資産に関する贈与の場合
永住権保持者またはアメリカ市民が対象
– 全世界の資産に対して適用可能
– より包括的な税務計画が必要
– 日本の税務上の影響も考慮が必要

 

グリーンカード保持者の日本での相続税について

アメリカ永住権(グリーンカード)を持ってアメリカに居住している日本人が、日本にある資産を含む相続を受ける場合、基本的に日本の相続税の納税義務が発生します。ただし、状況によって納税義務の範囲が異なってきます。

 

相続税の納税義務

相続税の納税義務は、以下の条件で判断されます。例えば、このようなことが考えられます。

 

1. 日本国籍を持つグリーンカード保持者の場合
– 日本国内の資産:相続税の対象
– 海外の資産:相続開始時から過去10年以内に日本に住所を有していた場合は対象
– 日本の基礎控除と税率が適用される

 

2. アメリカでの課税
– アメリカ基礎控除:13.61ミリオンドル(約20.4億円)
– 全世界の資産が対象
– 最高税率40%

 

二重課税への対応

同じ資産に対して日米両国で課税される可能性がある場合、以下のような対策が考えられます。例えば、このような方法があります。

 

1. 外国税額控除の利用
– 一方の国で支払った税額を他方の国で控除
– 適切な申告手続きが必要
– 期限内申告が重要

 

2. 租税条約の活用
– 日米租税条約に基づく調整
– 専門家への相談を推奨
– 適切な書類作成が必要

 

なお、日本国籍を保持している場合は、日本の相続税の納税義務が継続する可能性が高いため、専門家に相談しながら適切な対策を講じることが重要です。

 

まとめると、

  • ビザを取得してアメリカへ移住し、その後永住権もしくは市民権を取得、その後日本国籍を放棄
    かつ
  • 相続開始時から遡って10年以上日本に住所がない

という場合、全世界にある資産に対して「アメリカで」課税されることになり、アメリカは控除額が大きい分、夫婦で40億円近くまでは相続税が課税されないということになります。(日本にある資産は日本で課税されます)

 

 

アメリカ不動産売却における非課税ルール(セクション121)

ここまで見てきた贈与税の制度に加えて、アメリカの不動産投資で特に注目すべき制度が「セクション121」です。この制度は、適切に活用することで、不動産売却時の大きな税務メリットを得ることができます。

 

セクション121は一言で言えば、過去5年間のうち、2年間以上を自分が保有している物件に住居用として住んだ場合(Primary Residence)、個人で25万ドル(約3,750万円)、夫婦で50万ドル(約7,500万円)までがキャピタルゲインから控除され、課税されない、というルールです。

適用頻度には制限があり、2年に1回までとなりますが、逆を言えば、2年ごとに何度も使うことができます。

 

セクション121適用判断チャート

セクション121適用の明確な要件を改めてまとめると、以下となります。

 

1. 基本的な適用要件
– 過去5年間のうち2年以上の所有
– 主たる住居としての使用が2年以上
– 2年間は連続している必要あり
– 前回の適用から2年以上の経過

 

2. 非課税となる限度額
– 独身者:25万ドル(約3,750万円)まで
– 夫婦:50万ドル(約7,500万円)まで
– 一部適用の場合は按分計算

 

一部適用が認められる特例ケース

2年間の居住要件を満たさない場合でも、特定の理由がある場合は一部適用が認められます。IRSのガイドラインによると、例えば以下のようなケースが認められています。

 

1. 仕事関連の理由
– 転職に伴う引っ越し(40マイル以上の移動)
– 予期せぬ転勤
– 事業拠点の変更

 

2. 健康上の理由
– 医師が推奨する療養目的の転居
– 介護が必要な家族との同居
– 医療機関への近接性の必要性

セクション121の具体的な計算例

それでは、ニューヨーク市の物件を例に、具体的な税額計算を見ていきましょう。以下のような条件で、3つのケースを比較してみます。

 

前提条件:
– 購入価格:100万ドル(約1.5億円)
– 売却価格:160万ドル(約2.4億円)
– キャピタルゲイン:60万ドル(約9,000万円)

ケースはそれぞれ、夫婦所有、法人所有(個人ではなく)、家族共同所有 の3ケースです。

 

所有形態による税負担の比較

所有形態別に具体的な計算を見ていきましょう。(例はニューヨーク市の場合です)

 

1. 夫婦での所有の場合
– キャピタルゲイン:60万ドル(約9,000万円)
– 控除可能額:50万ドル(約7,500万円)
– 課税対象額:10万ドル(約1,500万円)
– 税金の内訳:
– 連邦税(20%):2万ドル(約300万円)
– NY州税(6.85%):6,850ドル(約103万円)
– NYC市税(3.85%):3,850ドル(約58万円)
– 合計税額:約3.07万ドル(約461万円)

 

2. 法人所有の場合
– キャピタルゲイン:全額が課税対象
– 税金の内訳:
– 連邦法人税(21%):12.6万ドル(約1,890万円)
– NY州法人税(7.5%):4.5万ドル(約675万円)
– NYC法人税(9%):5.4万ドル(約810万円)
– 合計税額:22.5万ドル(約3,375万円)

 

3. 家族での共同所有の場合(33%ずつのケース)

このケースでは、家族での適切な持分設定により、より効果的な税務メリットを得ることができます。例えば、このような計算になります。

 

母の持分(33%)
– キャピタルゲインの配分:19.8万ドル(約2,970万円)
– 個人の控除枠:25万ドル(約3,750万円)
– 課税対象:0ドル(控除枠内)
– 税金:0ドル

 

父の持分(33%)
– キャピタルゲインの配分:19.8万ドル(約2,970万円)
– 個人の控除枠:25万ドル(約3,750万円)
– 課税対象:0ドル(控除枠内)
– 税金:0ドル

 

子の持分(34%)
– キャピタルゲインの配分:20.4万ドル(約3,060万円)
– 個人の控除枠:25万ドル(約3,750万円)
– 課税対象:0ドル(控除枠内)
– 税金:0ドル

 

このように、同じ物件を所有する場合でも、どのようなスキームを選択するかで数千万円、場合によっては数億円の税額の違いが発生します。

 

実務上の重要なポイント

これらの計算例を踏まえ、実務上の重要なポイントをまとめてみましょう。例えば、以下のような点に注意が必要です。

 

税務申告上の注意点
– 適切な所有権の登記
– 居住実態の証明書類の保管
– 適切な会計記録の維持
– 期限内の確定申告

 

専門家への相談事項
– 所有形態の選択
– 持分比率の決定
– 税務申告の方法
– 将来の売却計画

 

当社Reinvent NYでは、不動産仲介をサポートするブローカーをやらせていただいており、不動産購入に関わるところは会計士・弁護士チームと連携し、総合支援を行っておりますので、詳細ぜひご相談いただければ幸いです。

 

アメリカ移住と不動産投資を絡めた税務メリットをまとめると、以下のようなロードマップが描けます。

米国不動産投資と税務メリット活用のロードマップ

まとめ

ここまで見てきたように、アメリカの相続税や贈与税のスキームも理解した上で、移住を絡めた不動産投資を行う場合、日本にはない大きな税務メリットがあります。

 

アメリカ不動産投資は、単なる資産運用としてだけでなく、将来の移住や資産承継も含めた総合的な生活設計として捉えることで、そのメリットを最大限に活用することができます。

 

記事をお読みいいただき、ありがとうございました。

当社Reinvent NY Incでは、2019年よりアメリカ移住・不動産購入、賃貸される個人様、企業様のご支援を続け、あらゆる側面をサポートする総合的なサービスを提供しています。

 

まずは以下フォームより、一度お気軽にご相談をいただけますと幸いです。

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