世界有数の透明性を誇るアメリカの不動産市場。その陰には、一般には決して知られることのない「隠れた市場」が存在することをご存知でしょうか。
近年、世界的な金融緩和政策により、多くの投資家が伝統的な金融商品から実物資産へとポートフォリオの重心をシフトさせています。その中でも、特にアメリカの不動産市場は、その規模と安定性、そして法制度の整備された環境から、世界中の投資家から高い関心を集めています。
全米不動産協会の2023年の調査によると、海外からの不動産投資額は年間530億ドル(7兆9,500億円/2024年12月現在)に達しています。
今回は、そんなアメリカ不動産市場の表舞台には決して出てこない富裕層向けの取引、いわゆる「オフマーケット」の実態に迫ってみたいと思います。
1. アメリカの不動産市場における透明性の高さ
アメリカの不動産市場の最大の特徴は、その驚くべき透明性の高さにあります。全米不動産協会(NAR)が定める公正取引ガイドライン(Fair Housing Act)により、ほぼすべての取引情報がデータベース化され、一般に公開されています。これは、1968年に制定された連邦法に基づく制度で、不動産取引における差別を禁止し、市場の透明性を確保することを目的としています。
例えば、ZillowやRealtor.com、Redfinといった主要な不動産ポータルサイトでは、過去20年以上にわたる取引履歴や、AIを活用した現在の推定価格(Zestimate)まで、誰でも無料で確認することができます。各物件の詳細な情報、近隣の治安状況、学区情報、将来の価値予測まで、豊富なデータが提供されています。これは、取引価格が必ずしも公開されない日本の不動産市場とは一線を画す特徴といえるでしょう。
さらに、アメリカ特有のエスクロー制度の存在も、市場の透明性と安全性を担保する重要な要素となっています。米国土地権原協会(ALTA)の定める基準に従い、独立した第三者機関であるエスクロー会社が取引の仲介者として入ることで、書類の真正性の確認から資金の管理まで、すべての過程が厳格に管理されています。これにより、Netflix制作の「地面師」のような不動産詐欺事件が起きにくい構造が確立されているのです。
2. 存在するオフマーケット取引
しかし、このように透明性の高いアメリカの不動産市場にも、一般には決して知られることのない「オフマーケット」と呼ばれる取引が確かに存在します。CNBCの不動産市場分析によると、特に高級物件市場では、取引の約15-20%がオフマーケットで行われているとされています。
取引タイプ | 一般的な価格帯 | 透明性 | 主な購入者層 | 取引の特徴 |
---|---|---|---|---|
一般取引 | ~500万ドル (~7.5億円) |
高 | 一般購入者 | MLSで公開 |
ラグジュアリー物件 | 500万~2000万ドル (7.5億~30億円) |
中 | 富裕層 | 一部非公開 |
Ultra-Luxury | 2000万ドル~ (30億円~) |
低 | 超富裕層 | 完全非公開 |
Co-op物件 | 変動的 | 中~低 | 審査通過者のみ | 理事会承認制 |
※アメリカの不動産取引タイプ別比較(2024年12月現在の一般的な傾向、1ドル=150円で計算)
3. 真のオフマーケット物件の実態
オフマーケット物件の中でも、特に注目すべきは「Ultra-Luxury」カテゴリーです。これらの物件は、通常2000万ドル(30億円)以上の価格帯で取引され、その存在自体が極めて限られた層にしか知られていません。
ナイトフランクの2024年のウェルスレポートによると、このカテゴリーでの取引の約80%が、一般的な不動産取引のプラットフォームを介さない、完全なプライベートネットワークを通じて行われているとされています。
たとえば、ニューヨークのセントラルパーク周辺に位置する220 Central Park Southでは、2019年に hedge fund のマネージャーであるKen Griffin氏が238億ドル(約357億円)で最上階のペントハウスを購入しましたが、この物件は一般的な不動産サイトには掲載されることなく、プライベートな商談により取引が進められました。
このような超高級物件が取引される場所として特に有名なのが、以下のエリアです。
・ニューヨーク:Fifth Avenue, Central Park West, Billionaires’ Row
・カリフォルニア:Beverly Hills, Bel Air, Pacific Palisades
・フロリダ:Palm Beach, Fisher Island
・ハワイ:カハラ、ダイアモンドヘッド
4. オフマーケットで取引される理由
では、なぜこれらの物件はオフマーケットで取引されるのでしょうか。Forbesの不動産専門家によると、主に以下の3つの理由が挙げられています。
プライバシーの保護
著名人や企業経営者にとって、自身の居住地や資産状況が公になることは、セキュリティ上のリスクとなり得ます。Mansion Globalのレポートによると、超富裕層の約65%が、不動産取引時にプライバシー保護を最重要視すると回答しています。
マーケティング戦略としての希少性
一般に公開されない物件であることが、むしろ価値を高める要因となっています。限られた層にのみ案内される「特別な物件」という位置づけが、価格のプレミアム性を担保しているのです。実際に、同様の物件でもオフマーケット取引の方が15-20%高い価格で取引される傾向にあります。
取引の柔軟性
通常の不動産取引では、公平性の観点から、すべての購入希望者に同じ条件を提示する必要があります。一方、オフマーケット取引では、買い手のニーズに応じて柔軟な条件設定が可能です。例えば、長期のクロージング期間や、特殊な支払い条件なども交渉できます。
5. ニューヨークのCo-opシステム
さらに特殊な例として、ニューヨークには「Co-op(コーポラティブ)」と呼ばれる独特の所有形態が存在します。Miller Samuel社の調査によると、マンハッタンの集合住宅の約75%がCo-op形式とされています。
Co-opでは、購入者は建物の一部を直接所有するのではなく、建物を所有する法人の株式を購入します。各物件の売買には理事会(Board)の承認が必要で、この承認プロセスは非常に厳格です。例えば、740 Park AvenueやRiver Houseといった最高級Co-opでは、購入希望者の資産状況だけでなく、社会的地位や人柄まで精査されます。
理事会は、いかなる理由でも購入を否認できる権限を持っており、実質的にプライベートクラブのような機能を果たしています。これにより、たとえ十分な資金力があったとしても、外国人投資家による「爆買い」のようなことは起こりにくい構造となっています。
まとめ
アメリカの不動産市場は確かに高い透明性を誇っていますが、一方で富裕層向けの「隠れた市場」も確かに存在しています。これは、市場の歪みというよりも、プライバシーや取引の柔軟性といった特定層のニーズに応える形で自然発生的に形成された市場と捉えるべきでしょう。
2024年現在、世界的な富の集中が進む中、このようなオフマーケット取引の重要性は今後さらに高まっていくことが予想されます。特に、Wealth-Xの予測によると、今後10年間で超富裕層(UHNWI:Ultra High Net Worth Individual)の人口は年平均5.3%で増加するとされており、それに伴いオフマーケット取引の市場規模も拡大していく可能性が高いといえるでしょう。
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