2025年6月21日 Satoshi Onodera

アメリカの保険制度を徹底解説、富裕層が利用するスキームとは

皆様はアメリカの富裕層が実践している保険活用スキームをご存知でしょうか。2025年6月現在、1ドル150円として計算すると、彼らが活用しているPPLI(プライベートプレースメント生命保険)は最低でも約3億円(200万ドル)の投資資金を必要とする高度な金融商品です。

一般的な生命保険とは全く異なる概念で設計されたこれらの商品は、アメリカの富裕層にとって単なるリスクヘッジではなく、税制優遇を最大限活用した資産保全・相続対策の中核を担っています。法人保険の経費化メリットから始まり、オフショア地域を活用した課税回避スキームまで、アメリカの保険制度には一般投資家には知られていない多層的な戦略が存在します。

 

それでは、なぜ世界最大の経済大国であるアメリカにおいて富裕層がこれほどまでに保険を活用するのか、その背景にある税制環境から具体的な活用手法まで詳しく見ていきましょう。

 

アメリカ富裕層が保険を選ぶ理由。税制環境の徹底分析

New York(ニューヨーク)

それでは、まずアメリカの富裕層が保険商品を積極的に活用する根本的な理由について詳しく見ていきます。

アメリカの富裕層の実効税率は意外にも低いという現実があります。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏やテスラCEOのイーロン・マスク氏といった超富裕層の納税記録が暴露された際、彼らの実効税率が一般的な中間層よりも低いことが判明し、大きな社会問題となりました。

 

この背景には、アメリカの税制構造に根本的な問題があります。通常の給与所得に対する最高税率は37%(2025年現在)ですが、キャピタルゲインに対する税率は最高20%に留まります。さらに重要なのは、富裕層が活用する各種控除制度や繰延制度により、実際の税負担を大幅に軽減できる点です。

 

法人保険の経費化メリット

 

個人で保険に加入する場合と法人で加入する場合では、税務上の取り扱いが根本的に異なります。個人加入の場合、保険料は税引き後所得から支払う必要がありますが、法人加入では保険料を損金として計上できるケースがあります。

 

特にキーマン保険(役員死亡リスクカバー)として設計された場合、保険料の一部または全額を経費として処理できます。年収5,000万円(約33万ドル)の経営者の場合、個人で年間500万円(約3.3万ドル)の保険料を支払うには約900万円の総所得が必要ですが、法人経由であれば500万円の経費処理により直接的な節税効果を得られます。

 

相続税対策としての生命保険活用

New York(ニューヨーク)

アメリカの富裕層にとって最も深刻な問題の一つが相続税です。2025年現在、連邦相続税の最高税率は40%に設定されており、基礎控除額は1,340万ドル(約20億円)となっています。

 

生命保険を活用することで、この相続税負担を大幅に軽減できます。特にILIT(Irrevocable Life Insurance Trust)と呼ばれる信託制度を併用することで、保険金を相続財産から除外しながら、相続人に非課税で資産を移転することが可能です。

 

PPLI(プライベートプレースメント生命保険)の革新的スキーム

それでは次に、アメリカの富裕層の間で急速に普及しているPPLIについて詳しく見ていきます。

 

PPLI は保有資産が上位0.1%の超富裕層を顧客とするアドバイザーの間で、いまや会話の大半を占めていると言われるほど注目を集めています。大抵は最低200万ドル(約2億7000万円)の投資を必要とするこの商品は、従来の生命保険の概念を完全に覆す革新的な金融商品です。

 

PPLIの基本構造と仕組み

 

PPLIの最大の特徴は、オープンアーキテクチャでの投資を可能にする点です。つまり、理論上はあらゆる資産を保有することができます。従来の変額保険では保険会社が用意した特定の投資オプションしか選択できませんでしたが、PPLIでは以下のような幅広い投資対象を選択可能です。

 

・ヘッジファンド持分
・プライベートエクイティファンド
・不動産投資信託(REIT)
・商品先物取引
・暗号資産(一部の商品)
・アート作品や希少金属

 

これらの投資収益は、資産がPPLIの保険契約の中にある限り、課税対象にはならないという強力な税務メリットを享受できます。

 

課税繰延効果の威力

通常、ヘッジファンドへの投資では年間収益の35%~40%が税金として徴収されます。しかし、PPLI内での運用であれば、この税負担を完全に回避できます。

 

具体例を挙げると、年間20%のリターンを生み出すヘッジファンドに5,000万円(約33万ドル)を投資した場合、通常の投資では年間400万円(約2.7万ドル)の税負担が発生します。しかし、PPLI内での運用であれば、この400万円も再投資に回すことができ、複利効果により長期的には数倍の差が生まれます。

 

投資手法 初期投資額 年間リターン 税負担 10年後資産額
通常投資 5,000万円 20% 40% 約1.5億円
PPLI内投資 5,000万円 20% 0% 約3.1億円
法人保険活用 5,000万円 15% 0% 約2.0億円
個人年金保険 5,000万円 8% 20% 約8,500万円
各投資手法による10年間の資産形成比較(2025年6月現在、1ドル150円換算)

 

オフショア地域の活用

 

多くのPPLI商品は、バミューダ、ケイマン諸島、ルクセンブルクなどのオフショア地域に設立された保険会社から提供されます。これらの地域は金融規制が柔軟で、かつアメリカとの間で租税条約を締結しているため、二重課税を回避しながら投資の自由度を最大化できます。

 

特にバミューダ籍の保険会社が提供するPPLI商品では、保険料の90%以上を投資に回すことができ、従来の保険商品と比較して圧倒的に効率的な資産運用が可能です。

 

法人保険によるアメリカ富裕層の節税戦略

それでは次に、アメリカの富裕層が法人を活用した保険戦略について詳しく見ていきます。

 

法人保険の活用は、単純な節税効果だけでなく、事業継承、役員退職金の準備、キャッシュフローの平準化など多面的なメリットを提供します。特に年商10億円(約670万ドル)以上の企業オーナーにとって、法人保険は欠かせない経営ツールとなっています。

 

キーマン保険の戦略的活用

キーマン保険は、企業の中核となる役員や従業員の死亡・高度障害リスクをカバーする保険ですが、アメリカの富裕層はこれを巧妙に節税ツールとして活用しています。

 

保険料を損金算入するためには、以下の要件を満たす必要があります。

・被保険者が企業の業績に重大な影響を与える地位にいること
・保険金額が被保険者の年収や企業への貢献度に見合った合理的な水準であること
・保険契約者・保険金受取人が法人であること
・保険事故発生時に企業が実際に経済的損失を被ることが予想されること

 

これらの要件を満たした上で、年間保険料2,000万円(約13万ドル)の契約を締結した場合、法人税率30%と仮定すると年間600万円(約4万ドル)の節税効果を得られます。

 

Section 105プランの医療費控除活用

Section 105プランは、小規模企業向けの福利厚生制度で、従業員の医療費を法人が負担し、それを経費として処理できる制度です。アメリカの富裕層の多くが経営する小規模法人では、この制度を積極的に活用しています。

 

この制度の特徴は、家族の医療費も対象に含められる点です。年間医療費500万円(約3.3万ドル)の家庭の場合、個人で支払えば医療費控除の対象となりますが、Section 105プランを活用すれば全額を法人の経費として処理できます。

 

法人保険と個人保険の税務比較

 

以下の表は、同じ保険商品を個人契約と法人契約で比較した場合の税務効果を示しています。

契約形態 年間保険料 実質負担額 節税効果 10年累積節税額
個人契約 1,000万円 1,000万円 0円 0円
法人契約(全額損金) 1,000万円 750万円 250万円 2,500万円
法人契約(1/2損金) 1,000万円 875万円 125万円 1,250万円
法人契約(1/4損金) 1,000万円 937万円 63万円 630万円
個人契約と法人契約の税務効果比較(法人税率25%、年間保険料1,000万円の場合)

 

個人年収5,000万円(約33万ドル)、法人税率25%、個人税率45%として計算した場合、法人契約の方が圧倒的に有利であることが分かります。特に10年間の累積効果を考慮すると、その差は数千万円に達します。

 

アメリカ移住後の保険戦略と注意点

それでは次に、アメリカへの移住を検討している富裕層が知っておくべき保険戦略について詳しく見ていきます。

 

アメリカの保険市場は世界最大規模を誇り、商品の多様性と競争力では他国を圧倒しています。しかし、移住直後の加入には特有のリスクと注意点が存在します。

 

健康状態による保険料決定システム

 

アメリカでは、生命保険の保険料が被保険者の健康状態によって大きく左右されます。日本のような年齢・性別・保険金額のみによる画一的な料率設定ではなく、詳細な医的査定に基づいて個別に保険料が決定されます。

 

移住直後は以下の理由で不利な査定を受ける可能性があります。

 

・過去の医療記録の翻訳・認証に時間がかかる
・アメリカの医療機関での検査履歴がない
・かかりつけ医との関係が構築されていない
・処方薬の服用履歴が不明確
・生活習慣の変化によるストレス状態

 

これらの要因により、本来であれば「優良体料率」の適用を受けられる健康状態であっても、「標準体料率」や「準標準体料率」が適用される可能性があります。年間保険料1,000万円(約6.7万ドル)の契約の場合、料率区分の違いにより年間200万円~300万円(約1.3万~2万ドル)の差が生じることも珍しくありません。

 

二重課税回避と租税条約の活用

 

日本からアメリカへの移住に際して最も注意すべきは、保険契約に関する二重課税問題です。アメリカで契約した保険であっても、日本の税務署は相続・贈与の評価対象とする場合があります。

 

特に以下のケースでは注意が必要です。

 

・移住前に日本で契約していた保険を継続する場合
・アメリカ契約の保険金受取人が日本居住者の場合
・保険料負担者と被保険者・受取人の居住地が異なる場合
・信託受益権として保険契約を保有する場合

 

これらの問題を回避するためには、移住前の綿密な税務プランニングが欠かせません。日米租税条約の規定を正確に理解し、両国の税制に最適化された契約設計を行う必要があります。

 

生前贈与と組み合わせた相続対策

 

アメリカの富裕層が活用する高度な相続対策として、生前贈与と生命保険を組み合わせたスキームがあります。

 

年間贈与税非課税枠18,000ドル(約270万円)を活用し、この資金で生命保険に加入します。被保険者を贈与者、保険契約者・受取人を受贈者とすることで、贈与税を負担することなく多額の資産を次世代に移転できます。

 

例えば、夫婦から子供2人への贈与の場合、年間総額72,000ドル(約1,080万円)まで非課税で贈与可能です。これを20年間継続すれば、総額1,440万ドル(約21.6億円)の資産移転が可能となります。さらに、この資金で生命保険に加入することで、実際の資産移転額は保険金額に応じて数倍に増加します。

 

アメリカの富裕層保険戦略から学ぶ資産保全の新常識

それでは最後に、これまで見てきたアメリカの富裕層の保険活用スキームから学べる資産保全の新しい常識について総括します。

 

従来の日本の富裕層が考える保険活用は、相続税の節税や事業承継対策に留まることが多く、その視野の狭さが資産効率を大幅に損なっています。しかし、アメリカの富裕層の手法を参考にすることで、より包括的で効果的な資産戦略を構築できます。

 

一方で、こうした高度なスキームには以下のような懸念も指摘されています。

 

・制度の複雑さによる運用コストの増大
・法改正リスクによる戦略の無効化
・オフショア地域の政治的リスク
・為替変動による資産価値の変動
・流動性の制約による機会コストの発生

 

これらのリスクを十分に理解した上で、それでもなおアメリカの富裕層がこれらのスキームを活用し続ける理由は、その圧倒的な効果にあります。

特に重要なのは、これらの戦略が「節税」という単一の目的ではなく、「資産保全」「世代承継」「リスク分散」「流動性確保」という多面的な価値を同時に実現している点です。

 

日本の金融所得課税の引き上げ議論や相続税制の厳格化を背景に、今後は国境を越えた資産戦略がますます重要になります。アメリカの保険制度が提供する柔軟性と効率性は、グローバルに活動する富裕層にとって必要不可欠なインフラストラクチャーといえるでしょう。

 

ただし、これらの戦略を実行するには、国際税務、保険法、信託法、相続法にわたる高度な専門知識と、継続的なモニタリング体制が必要です。単純な模倣ではなく、個々の資産状況と将来計画に最適化されたオーダーメイドの戦略設計が成功の鍵となります。

 

結論として、アメリカの富裕層が実践する保険活用スキームは、単なる金融商品の選択ではなく、包括的な資産戦略の一環として位置づけられています。日本の富裕層も、こうした視点を取り入れることで、より効果的で持続可能な資産保全を実現できるはずです。今こそ、従来の固定観念を打破し、グローバルスタンダードに基づいた資産戦略への転換を検討すべき時期といえるでしょう。

 

 

いかがでしたでしょうか?最後に、これらの保険制度はアメリカに移住することで、どなたでも加入できます。当社ではE2ビザ取得サポートを2019年より続けており、250ケースを超える支援実績がございます。

投資額およそ3,000万円程度からアメリカに移住することが可能であり、進め方のコンサルティングからビザ取得まで包括的にご支援させていただいておりますので、ご関心のある方は以下のお問い合わせフォームよりご連絡ください。

 

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記事をお読みいただき、ありがとうございました。

 

引用元:
Bloomberg – 米国の超富裕層、増税逃れの策をすでに確保
超富裕層が選択するPPLIというニッチ戦略
Bloomberg – 富裕層を税から守るブラックストーンの「保険」

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