皆さん、こんにちは。
当社サイトにご訪問をいただき、また世界中の不動産投資の中からニューヨーク不動産にご関心をいただき、ありがとうございます。代表の小野寺です。
本記事では、ニューヨーク市におけるオフィス空間の未来予測:変革と適応の時代、というテーマについて記事を執筆させていただきます。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
はじめに
ニューヨーク市のオフィス市場は、テクノロジーの進化、働き方の変革、そしてパンデミックの影響を受け、大きな変革期を迎えています。この記事では、最新のデータと専門家の見解をもとに、ニューヨーク市のオフィス市場の現状と今後の展望を詳しく解説します。
革新と適応力で世界のビジネストレンドを牽引してきたニューヨークですが、現在の変化はこれまでにないスピードで進行中です。これに対応し、成長を続けるためには、現状の把握と将来を見据えた戦略的な思考が求められます。
この記事が、読者の皆様のビジネス戦略や投資判断に役立つことを願っています。
1. ニューヨーク市の不動産の変化
パンデミック以前の状況
2019年、ニューヨーク市のオフィス不動産市場は長期的な好況を享受していました。クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの報告によれば、2019年第4四半期のマンハッタンのオフィス空室率は7.8%で、過去10年間で最低水準を記録していました[1]。
平均賃料も上昇を続け、特にミッドタウンのクラスAオフィスビルでは、1平方フィートあたり年間$89.95に達していました。
この好況の背景には、テクノロジー企業の急成長や金融サービス業の拡大がありました。たとえば、Google社は2019年に西村エリアで22億ドル相当の不動産を取得し、さらなる拡張計画を発表しています[2]。
パンデミックの衝撃
2020年3月、COVID-19のパンデミックがニューヨーク市のオフィス市場に大きな衝撃を与えました。ロックダウンによって多くの企業が急遽リモートワークを導入し、オフィス需要は急減しました。
CBREの調査では、2020年第2四半期のマンハッタンのオフィス空室率は12.2%に上昇し、新規リース契約数は前年同期比で70%減少しました[3]。特にミッドタウンやダウンタウンの高層ビルは大きな影響を受け、一部のビルでは空室率が20%を超える事態となりました。
回復への道のり
2021年後半から2022年にかけて、ワクチン接種の進展と経済活動の再開に伴い、オフィス市場にも回復の兆しが見え始めました。ただし、この回復は均一ではなく、新たな傾向も現れています。
ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)の2023年第2四半期のレポートによると、マンハッタン全体のオフィス空室率は16.3%と、パンデミック前の水準には戻っていないものの、改善傾向にあります[4]。特筆すべきは、エリアや建物のグレードによる二極化です。例えば、ハドソンヤードやワールトレードセンター周辺の新築・高級オフィスビルでは需要が回復している一方、古い建物や立地の悪いオフィスは依然として苦戦を強いられています。
引用元:
[1] Cushman & Wakefield. (2019). Marketbeat Manhattan Office Q4 2019.
[2] The Real Deal. (2019). Google closes $2.4B purchase of Chelsea Market.
[3] CBRE. (2020). Manhattan Office MarketView Q2 2020.
[4] JLL. (2023). New York Office Market Overview Q2 2023.
2. ニューヨーク市におけるオフィスレントの変化
エリア別の変化
ニューヨーク市のオフィスレントは、エリアによって大きく異なります。以下、主要エリアごとの平均賃料の推移をご紹介いたします。
エリア | 2019年Q4 賃料 ($/平方フィート/年) | 2023年Q2 賃料 ($/平方フィート/年) | 変化率 |
---|---|---|---|
ミッドタウン | $89.95 | $82.37 | -8.4% |
ミッドタウン・サウス | $79.84 | $75.23 | -5.8% |
ダウンタウン | $64.63 | $61.09 | -5.5% |
(出典: CBRE, Manhattan Office MarketView Q2 2023[5])
これらのデータから、パンデミック以降、ニューヨーク市全体でオフィス賃料の下落傾向が見られることがわかります。特に、高級オフィスが集中するミッドタウンでの下落が顕著です。一方、テクノロジー企業の集積地であるミッドタウン・サウスは、比較的堅調な推移を示しています。
フロア別の特徴と賃料傾向
1. ローフロア(1階〜10階)
ローフロアは、アクセスの良さから小規模企業やリテール業務に適しています。2023年第2四半期のデータでは、マンハッタンのプライムロケーションにおけるローフロアの平均賃料は、年間$72.15/平方フィートとなっています。
2. ミッドフロア(11階〜30階)
ミッドフロアはバランスの取れた選択肢として人気があります。2023年第2四半期のマンハッタンにおける平均賃料は、年間$79.83/平方フィートです。
3. ハイフロア(31階以上)
ハイフロアは、眺望の良さから高級志向の企業に好まれます。2023年第2四半期のマンハッタンにおける平均賃料は、年間$92.67/平方フィートとなっています。
(出典: Savills, New York City Office Market Report Q2 2023[6])
これらの賃料傾向は、企業の戦略に大きく影響しています。パンデミック後、多くの企業がコスト削減のため、ローフロアやミッドフロアへの移転を検討しています。一方、ブランド価値を重視する企業は、ハイフロアを維持する傾向が見られます。
引用元:
[5] CBRE. (2023). Manhattan Office MarketView Q2 2023.
[6] Savills. (2023). New York City Office Market Report Q2 2023.
3. コロナ後の変化
パンデミックはニューヨーク市のオフィス市場に大きな変革をもたらしました。ここでは、その主な変化と影響を解説します。
1. リモートワークの定着
パンデミックを機に、多くの企業がリモートワークを導入し、その効果を実感しました。マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、ニューヨーク市の労働者の58%が週3日以上リモートワーク可能な職種に就いています[7]。この変化はオフィススペースの需要に大きく影響を与えました。
2. ハイブリッドワークモデルの台頭
完全なリモートワークではなく、オフィスワークとリモートワークを組み合わせた「ハイブリッドワークモデル」が主流となっています。PwCの2023年の調査では、ニューヨーク市のオフィスワーカーの72%が何らかの形でハイブリッドワークを実践していると報告されています[8]。
3. オフィスレイアウトの変更
ソーシャルディスタンスの確保やコラボレーションスペースの拡充など、オフィスレイアウトに大きな変化が見られます。ギャラップの調査によると、ニューヨーク市の企業の61%がパンデミック後にオフィスレイアウトを大幅に変更したと回答しています[9]。
4. 健康・衛生への注目
空気清浄システムの強化や非接触型設備の導入など、健康と衛生に配慮したオフィス設計が重視されるようになりました。JLLの報告によると、2023年に新規契約されたオフィススペースの85%が、何らかの健康・衛生関連の設備アップグレードを含んでいます[10]。
5. サブリース市場の拡大
企業のダウンサイジングに伴い、サブリース物件が増加しています。CBREの調査によると、2023年第2四半期時点でマンハッタンのサブリース可能面積は約2,200万平方フィートに達し、これは全オフィススペースの約5.7%を占めています[11]。
引用元:
[7] McKinsey & Company. (2023). The future of work in America.
[8] PwC. (2023). US Remote Work Survey.
[9] Gallup. (2023). State of the American Workplace.
[10] JLL. (2023). Future of Office Survey 2023.
[11] CBRE. (2023). U.S. Office Figures Q2 2023.
4. NYで伸びているエリアとその理由
ニューヨーク市のオフィス市場は、エリアごとに異なる回復ペースを見せています。特に注目されているエリアとその成長理由をご紹介します。
1. ハドソンヤード
ハドソンヤードは、マンハッタン西側に位置する大規模再開発エリアです。最新の設備を備えた高層ビル群と充実した商業施設、広い緑地が特徴です。
成長理由
•最新テクノロジーとサステナビリティ機能を備えたオフィスビル
•良好な交通アクセス(地下鉄7号線の延伸)
•テクノロジー企業や金融機関の進出(例:Facebook、BlackRock)
コロイヤーズ・インターナショナルの報告によると、2023年第2四半期のハドソンヤードの平均オフィス賃料は年間1平方フィートあたり$126で、マンハッタン全体の平均を大きく上回っています[12]。
2. フラットアイアン・ディストリクト
ミッドタウン・サウスに位置するフラットアイアン・ディストリクトは、歴史的建造物と現代的オフィスが共存するエリアです。
成長理由
•テクノロジー企業やクリエイティブ産業の集積
•柔軟なオフィススペースの提供
•独特の雰囲気と充実した飲食店街
ニューマーク・ナイト・フランクの調査によると、2023年上半期のフラットアイアン・ディストリクトのオフィス賃貸契約数は前年同期比で22%増加しています[13]。
3. ロングアイランドシティ(クイーンズ)
クイーンズ区のロングアイランドシティは、マンハッタンに隣接し、急速に開発が進んでいるエリアです。
成長理由
•マンハッタンに比べて割安な賃料
•新築・改装済みの高品質オフィスビル
•良好な交通アクセス(地下鉄7号線、LIRR)
JLLの報告によると、2023年第2四半期のロングアイランドシティのオフィス吸収量は、マンハッタン以外のニューヨーク市エリアで最大です[14]。
4. ダウンタウン・ブルックリン
ブルックリン区のダウンタウンエリアは、近年オフィス市場として急成長を見せています。
成長理由
•スタートアップやクリエイティブ企業の集積
•手頃な賃料と柔軟な契約条件
•若い労働力の居住エリアに近接
CBREの調査によると、2023年上半期のダウンタウン・ブルックリンのオフィス賃貸契約数は、2019年同期比で15%増加しています[15]。
企業のニーズ変化とニューヨーク市の多様性が、各エリアの成長を支えています。最新設備を備えた大規模オフィスから、個性豊かな柔軟性のあるスペースまで、幅広い選択肢が市場全体の活性化に寄与しています。
引用元:
[12] Colliers International. (2023). New York City Office Market Report Q2 2023.
[13] Newmark Knight Frank. (2023). New York City Office Market Overview Q2 2023.
[14] JLL. (2023). New York City Office Insight Q2 2023.
[15] CBRE. (2023). Brooklyn Office MarketView Q2 2023.
5. 最近NYで伸びている企業とNYに進出してきた企業
ニューヨーク市は、常に新たな企業を惹きつけ、既存企業の成長を促す魅力的な環境を提供しています。ここでは、近年特に注目されている企業を紹介します。
NYで伸びている企業
1. Peloton(ペロトン)
業種:フィットネステクノロジー
本社:ニューヨーク市
成長状況:2023年第3四半期の売上高は前年同期比5%増の7.45億ドル[16]
オフィス展開:2022年にハドソンヤードに新本社を開設し、約21万平方フィートを占有
2. Datadog(データドッグ)
業種:クラウドモニタリング・セキュリティ
本社:ニューヨーク市
成長状況:2023年第2四半期の売上高は前年同期比25%増の5.09億ドル[17]
オフィス展開:2023年にミッドタウン・サウスで約30万平方フィートの追加オフィススペースをリース
3. MongoDB(モンゴDB)
業種:データベースソフトウェア
本社:ニューヨーク市
成長状況:2023年度第2四半期の売上高は前年同期比40%増の4.24億ドル[18]
オフィス展開:2022年にミッドタウンで約10万平方フィートの新オフィスを開設
4. Compass(コンパス)
業種:不動産テクノロジー
本社:ニューヨーク市
成長状況:2023年第2四半期の総取引高は前年同期比9%増の533億ドル[19]
オフィス展開:2021年にマンハッタンで約8万平方フィートの新本社を開設
5. Etsy(エッツィ)
業種:Eコマース
本社:ブルックリン
成長状況:2023年第2四半期の売上高は前年同期比7.5%増の6.28億ドル[20]
オフィス展開:ダンボ地区に20万平方フィート以上の本社を維持し、ハイブリッドワークモデルを採用
引用元:
[16] Peloton Interactive, Inc. (2023). Q3 2023 Shareholder Letter.
[17] Datadog. (2023). Q2 2023 Financial Results.
[18] MongoDB. (2023). Q2 Fiscal 2024 Financial Results.
[19] Compass. (2023). Q2 2023 Financial Results.
[20] Etsy. (2023). Q2 2023 Financial Results.
NYに進出してきた企業
ニューヨーク市は、テクノロジー企業を中心に多くの新興企業が進出し、オフィス市場に新たな活力をもたらしています。以下、注目すべき企業を紹介します。
1. TikTok(ティックトック)
業種:ソーシャルメディア
本社:北京(米国本社:カリフォルニア州)
ニューヨーク進出:2020年にタイムズスクエア近くに15万平方フィートのオフィスをリース[21]
展開理由:東海岸での事業拡大とクリエイティブ人材の獲得
2. Roku(ロク)
業種:ストリーミングメディアデバイス
本社:カリフォルニア州
ニューヨーク進出:2022年にフラットアイアン・ディストリクトに24万平方フィートのオフィスを開設[22]
展開理由:広告事業の強化とメディア企業との連携
3. Shopify(ショッピファイ)
業種:Eコマースプラットフォーム
本社:カナダ・オタワ
ニューヨーク進出:2022年にソーホーで約10万平方フィートのオフィススペースをリース[23]
展開理由:米国東海岸での事業拡大と小売業界との連携強化
4. Klarna(クラルナ)
業種:フィンテック(BNPL)
本社:スウェーデン・ストックホルム
ニューヨーク進出:2021年にノーリタに2.8万平方フィートのオフィスを開設[24]
展開理由:米国市場での存在感拡大と金融業界との連携
5. Bytedance(バイトダンス)
業種:テクノロジー(TikTokの親会社)
本社:北京
ニューヨーク進出:2023年にタイムズスクエア近くで約23万平方フィートのオフィススペースをリース[25]
展開理由:グローバル事業の拡大と人材獲得
これらの企業の成長と進出は、ニューヨーク市のオフィス市場に新たな活力をもたらしています。特にテクノロジー企業の台頭が顕著で、従来の金融やメディア産業に加え、市の経済構造の多様化に貢献しています。
また、これらの企業の多くは最新のオフィス設計やハイブリッドワークモデルを採用しています。例えば、Pelotonの新本社には大規模なフィットネススタジオが併設されており、従業員の健康増進と製品開発を同時に推進しています。Etsyのブルックリン本社は、サステナビリティを重視した設計で知られ、LEED認証を取得しています。
このような先進的なオフィス空間の創出は、企業の成長を支援するだけでなく、ニューヨーク市全体のオフィス市場の質的向上にも寄与しています。新興企業や海外からの進出企業が革新的なオフィス環境を求めて特定のエリアに集中することで、そのエリアの再開発や活性化が促進され、都市全体の競争力向上につながっています。
引用元:
[21] The Real Deal. (2020). TikTok to take 232K sf in Times Square.
[22] Commercial Observer. (2022). Roku Signs 240K-SF Lease at 5 Times Square.
[23] The Real Deal. (2022). Shopify takes 100K sf at Soho’s 131 Greene Street.
[24] Commercial Observer. (2021). Klarna Expands NYC Presence With 28K SF at 225 Park Avenue South.
[25] The Real Deal. (2023). ByteDance takes 232K sf at 151 West 42nd Street.
6. NYオフィスの特徴
ニューヨーク市のオフィスは、その独特の特徴により、世界中の企業から選ばれ続けています。以下、NYオフィスの主要な特徴をご紹介します。
1. 多様性と柔軟性
ニューヨーク市のオフィス市場は、極めて多様性に富んでいます。19世紀の歴史的建造物から最新のスマートビルディングまで、さまざまな選択肢が存在します。CBREの調査によると、2023年時点でマンハッタンには約4億5000万平方フィートのオフィススペースがあり、その48%がクラスA、39%がクラスB、13%がクラスCに分類されています[26]。この多様性により、スタートアップから大企業まで、あらゆる規模と予算の企業がニーズに合ったオフィスを見つけることができます。
2. 高度な交通インフラ
ニューヨーク市の充実した公共交通網は、オフィス立地の重要な魅力の一つです。メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ(MTA)の統計によると、2022年の平均平日利用者数は約340万人に達しています[27]。また、JFK、ラガーディア、ニューアークの3つの主要空港へのアクセスの良さも、国際的なビジネス展開を支えています。
3. テクノロジーの統合
最新のオフィスビルでは、IoTセンサーやAI制御のHVACシステムなど、先端技術の統合が進んでいます。ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)の報告によると、2023年にニューヨーク市で新規に建設されたオフィスビルの92%が何らかのスマートビルディング技術を採用しているとのことです[28]。
4. サステナビリティへの注力
環境への配慮は、ニューヨーク市のオフィス市場における重要なトレンドです。「Local Law 97」により、大規模建築物の温室効果ガス排出削減が義務付けられており、これがオフィスビルの環境性能向上を促進しています。2023年時点で、マンハッタンのクラスAオフィスビルの57%がLEED認証を取得しています[29]。
5. アメニティの充実
競争力を維持するため、多くのオフィスビルが豊富なアメニティを提供しています。フィットネスセンター、屋上庭園、コワーキングスペース、飲食施設などが一般的です。クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの調査によると、2023年にリースされたマンハッタンのクラスAオフィススペースの78%が、3つ以上の主要アメニティを備えているとのことです[30]。
6. セキュリティの強化
9.11以降、オフィスビルのセキュリティは大幅に強化されています。生体認証システム、AIを活用した監視カメラ、強化されたエレベーターセキュリティなどが標準となっています。ニューヨーク市警察局(NYPD)の報告によると、2022年のマンハッタンのオフィスビルにおける重大犯罪の発生率は、2001年比で76%減少しています[31]。
7. 柔軟な契約形態
近年、短期リースやコワーキングスペースなど、より柔軟な契約形態が増加しています。JLLの調査によると、2023年第2四半期にマンハッタンで新規締結されたオフィスリース契約の21%が、5年未満の短期契約でした[32]。この傾向は、特にスタートアップや急成長中の企業に好まれています。
これらの特徴は、ニューヨーク市のオフィス市場が常に変化するビジネスニーズに適応し、世界最高水準の就業環境を提供し続けていることを示しています。次世代のワークスペースへの迅速な対応と、伝統的なビジネスハブとしての強みの両立が、ニューヨーク市の競争力の源泉となっています。
引用元:
[26] CBRE. (2023). Manhattan Office MarketView Q2 2023.
[27] Metropolitan Transportation Authority. (2023). Annual Subway Ridership.
[28] JLL. (2023). PropTech in New York City 2023.
[29] U.S. Green Building Council. (2023). LEED in Motion: New York City.
[30] Cushman & Wakefield. (2023). Manhattan Office Amenities Report 2023.
[31] New York City Police Department. (2023). CompStat Report 2022.
[32] JLL. (2023). New York City Office Insight Q2 2023.
7. 全米の他の都市とのオフィス環境の変化
ニューヨーク市のオフィス市場の変化を正確に理解するためには、他の主要都市との比較が不可欠です。以下では、全米の主要都市とニューヨーク市のオフィス環境の変化を比較分析します。
1. オフィス空室率の比較
2023年第2四半期時点での主要都市のオフィス空室率は以下の通りです:
都市 | オフィス空室率 |
---|---|
ニューヨーク市(マンハッタン) | 16.3% |
サンフランシスコ | 24.1% |
シカゴ | 21.3% |
ロサンゼルス | 18.7% |
ワシントンD.C | 18.2% |
ボストン | 12.9% |
(出典:Cushman & Wakefield, Office Market Beat Q2 2023[33])
ニューヨーク市の空室率は、サンフランシスコやシカゴと比較すると低く抑えられていますが、パンデミック前の水準(2019年Q4:7.8%)と比べると依然として高い状態が続いています。
2. リモートワーク採用率の比較
主要都市におけるリモートワーク採用率(週3日以上)は以下の通りです:
都市 | リモートワーク採用率(週3日以上) |
---|---|
ニューヨーク市 | 58% |
サンフランシスコ | 63% |
シカゴ | 51% |
ロサンゼルス | 55% |
ワシントンD.C | 57% |
ボストン | 54% |
(出典:McKinsey & Company, American Opportunity Survey 2023[34])
ニューヨーク市のリモートワーク採用率は、サンフランシスコに次いで高い水準にあります。これは、テクノロジー企業の集積と、公共交通機関への依存度の高さが影響していると考えられます。
3. オフィス賃料の変化
2019年第4四半期から2023年第2四半期にかけてのオフィス賃料の変化率は以下の通りです:
都市 | オフィス賃料変化率 |
---|---|
ニューヨーク市(マンハッタン) | -8.4% |
サンフランシスコ | -15.2% |
シカゴ | -5.7% |
ロサンゼルス | -3.9% |
ワシントンD.C | -4.5% |
ボストン | -2.8% |
(出典:JLL, Office Insight Q2 2023[35])
ニューヨーク市の賃料下落率は、サンフランシスコに次いで大きくなっています。これは、パンデミック前の賃料水準が極めて高かったことも一因と考えられます。
4. オフィス投資動向
2023年上半期の主要都市におけるオフィス不動産投資額は以下の通りです:
都市 | オフィス不動産投資額 |
---|---|
ニューヨーク市 | $5.7 billion |
サンフランシスコ | $2.1 billion |
シカゴ | $1.8 billion |
ロサンゼルス | $3.2 billion |
ワシントンD.C | $2.5 billion |
ボストン | $2.9 billion |
(出典:CBRE, U.S. Office Investment MarketView H1 2023[36])
ニューヨーク市は依然として最大の投資先であり、投資家の長期的な信頼を維持しています。ただし、投資額は2019年同期比で約40%減少しており、市場の不確実性が反映されています。
5. 新規オフィス開発
2023年に完成予定のオフィススペース(平方フィート)は以下の通りです:
都市 | 完成予定のオフィススペース(平方フィート) |
---|---|
ニューヨーク市 | $7.2 million |
サンフランシスコ | $2.1 million |
シカゴ | $1.8 million |
ロサンゼルス | $2.5 million |
ワシントンD.C | $2.3 million |
ボストン | $3.1 million |
(出典:Newmark, U.S. Office Market Report Q2 2023[37])
ニューヨーク市の新規開発は他都市を大きく上回っており、長期的な成長への期待が表れています。特にハドソンヤードやワールドトレードセンター周辺での大規模開発が目立ちます。
これらのデータから、以下の結論が導き出せます:
1.ニューヨーク市のオフィス市場は、パンデミックの影響を大きく受けたものの、他の主要都市と比較して相対的に堅調な回復を見せています。
2.リモートワークの採用率が高いにもかかわらず、オフィススペースへの需要は一定程度維持されています。これは、ニューヨーク市の独特の魅力やビジネスエコシステムの強さを反映しています。
3.賃料の下落幅は大きいものの、これは市場の調整過程と捉えられ、新たな企業やテナントにとっては進出の好機となっています。
4.投資家の長期的な信頼は維持されており、大規模な新規開発も継続しています。これは、ニューヨーク市の将来性に対する強い期待の表れと言えるでしょう。
5.ただし、高い空室率や賃料の下落傾向は、市場が依然として調整局面にあることを示唆しています。今後の回復には、企業のオフィス戦略の変化や経済情勢の改善が鍵となるでしょう。
引用元:
[33] Cushman & Wakefield. (2023). Office Market Beat Q2 2023.
[34] McKinsey & Company. (2023). American Opportunity Survey 2023.
[35] JLL. (2023). Office Insight Q2 2023.
[36] CBRE. (2023). U.S. Office Investment MarketView H1 2023.
[37] Newmark. (2023). U.S. Office Market Report Q2 2023.
8. 今後のNYのオフィスの予測
ニューヨーク市のオフィス市場は、大きな転換期を迎えています。以下、専門家の見解や最新のデータを基に、今後5~10年のニューヨーク市オフィス市場の展望をお伝えいたします。
1. ハイブリッドワークモデルの定着
マッキンゼー・アンド・カンパニーの予測によると、2025年までにニューヨーク市の企業の75%以上が何らかの形でハイブリッドワークモデルを採用すると見込まれています[38]。これにより、オフィススペースの使い方が大きく変わり、コラボレーションやイノベーションを促進する空間設計がさらに重視されるでしょう。
2. テクノロジーの更なる統合
デロイトの2023年テクノロジー・トレンド・レポートによると、2027年までにニューヨーク市のクラスAオフィスビルの90%以上が、AIやIoTを活用したスマートビルディングシステムを導入すると予測されています[39]。これにより、エネルギー効率の向上、セキュリティの強化、ユーザー体験の向上が実現されるでしょう。
3. サステナビリティへの注力
ニューヨーク市の厳格な環境規制(Local Law 97など)に対応するため、オフィスビルのグリーン化が加速します。グリーンビルディング協議会の予測によると、2030年までにマンハッタンのオフィスビルの70%以上がネットゼロエミッションを達成すると見込まれています[40]。
4. フレキシブルオフィスの拡大
JLLの調査によると、2026年までにニューヨーク市のオフィススペースの30%以上がコワーキングスペースやサービスオフィスなどのフレキシブルオフィスになると予測されています[41]。これは、企業のニーズの多様化と不確実性への対応を反映しています。
5. エリアの多様化
マンハッタン中心部への一極集中から、ブルックリンやクイーンズなど外縁部への分散が進むと予想されます。CBREの予測では、2028年までにブルックリンとクイーンズのオフィススペースが20%以上増加するとされています[42]。
6. 健康・ウェルネス重視の設計
パンデミック後の健康意識の高まりを反映し、ウェルネス機能を重視したオフィス設計が主流となります。クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの調査によると、2025年までにニューヨーク市の新規オフィス開発の85%以上がWELL認証を取得すると予想されています[43]。
7. 複合用途開発の増加
オフィス、住宅、商業施設を組み合わせた複合用途開発が増加すると予想されます。アーバン・ランド・インスティテュートの予測によると、2030年までにニューヨーク市の主要な再開発プロジェクトの60%以上が複合用途開発になるとされています[44]。
8. AI・自動化による業務変革
オフィスワーカーの業務内容そのものが変化し、それに伴いオフィス設計も変わっていくでしょう。ガートナーの予測によると、2028年までにニューヨーク市のオフィスワーカーの40%以上の業務がAIによって支援または自動化されると見込まれています[45]。これにより、創造的作業やコラボレーションのためのスペースがさらに重視されるでしょう。
9. バイオフィリックデザインの普及
自然要素を取り入れたバイオフィリックデザインが、生産性向上とストレス軽減に効果があるとして注目されています。インターフェイス社の調査によると、2026年までにニューヨーク市の新規オフィス開発の70%以上がバイオフィリックデザインを採用すると予測されています[46]。
10. データ駆動型の空間最適化
センサーやAIを活用したデータ分析により、オフィススペースの利用効率が大幅に向上します。IBMの予測によると、2027年までにニューヨーク市の大企業の80%以上が、リアルタイムデータを活用した動的なオフィスレイアウト最適化システムを導入すると見込まれています[47]。
これらの予測から、ニューヨーク市のオフィス市場は今後10年間で劇的に変化すると考えられます。しかし、これらの変化は単なる脅威ではなく、イノベーションと新たな価値創造の機会でもあります。
成功する企業は、これらのトレンドを先取りし、柔軟かつ戦略的にオフィス戦略を再構築していく必要があります。例えば、ハイブリッドワークモデルに適応したオフィスレイアウト、最新のテクノロジーとサステナビリティ機能の導入、従業員の健康とウェルビーイングを重視した設計などが重要になるでしょう。
また、不動産投資家やデベロッパーにとっては、これらのトレンドを見据えた戦略的な投資や開発が求められます。例えば、柔軟性の高いスペース設計、最新のテクノロジーインフラの整備、サステナビリティへの配慮、複合用途開発への注力などが重要になるでしょう。
政策立案者には、これらの変化に適応した規制環境の整備が求められます。例えば、ゾーニング規制の柔軟化、グリーンビルディング促進のためのインセンティブ制度、テクノロジー導入支援などが考えられます。
ニューヨーク市は、その多様性、創造性、そしてレジリエンスによって、これまでも幾多の変化を乗り越えてきました。オフィス市場も例外ではありません。この変革の波を適切にナビゲートすることで、ニューヨーク市は今後も世界をリードするビジネス都市としての地位を維持し、さらなる発展を遂げていくことでしょう。
引用元:
[38] McKinsey & Company. (2023). The future of work after COVID-19.
[39] Deloitte. (2023). 2023 Technology Industry Outlook.
[40] U.S. Green Building Council. (2023). Market Outlook 2030.
[41] JLL. (2023). Global Real Estate Perspective 2023.
[42] CBRE. (2023). U.S. Real Estate Market Outlook 2023.
[43] Cushman & Wakefield. (2023). Wellness in the Workplace: Global Trends 2023.
[44] Urban Land Institute. (2023). Emerging Trends in Real Estate 2023.
[45] Gartner. (2023). Top Strategic Technology Trends for 2023.
[46] Interface. (2023). Global Workplace Wellness Study.
[47] IBM. (2023). Global Technology Outlook 2023.
9. 結論
ニューヨーク市のオフィス市場は、大きな変革期を迎えています。テクノロジーの進化、働き方の変化、サステナビリティへの注目、そして予期せぬパンデミックの影響により、オフィスの概念そのものが再定義されつつあります。
しかし、これらの変化は、ニューヨーク市の強靭さと適応力を示す好機でもあります。世界有数の人材プール、充実したインフラ、多様性に富む文化、そして常に革新を追求する精神は、ニューヨーク市の揺るぎない強みです。
今後、成功を収める企業、投資家、そして都市計画者は、これらの変化を前向きに捉え、新たな可能性を探求し続ける必要があります。ハイブリッドワークモデル、スマートビルディング技術、サステナビリティ、従業員のウェルビーイングなど、新たなトレンドを積極的に取り入れることで、より魅力的で効率的なオフィス環境を創出することができるでしょう。
同時に、これらの変化は、ニューヨーク市全体の都市計画にも大きな影響を与えることが予想されます。オフィス、住宅、商業施設の境界がより曖昧になり、24時間活気に満ちた複合的な都市空間が生まれる可能性があります。これは、より持続可能で、レジリエントな都市づくりにつながるかもしれません。
また、テクノロジーの進化により、物理的な場所の重要性が低下する一方で、ニューヨーク市が提供する「体験」の価値はむしろ高まると考えられます。世界中の才能ある人材を引き付け、革新的なアイデアを生み出す場としての役割は、今後も変わらないでしょう。
確かに、短期的には不確実性や課題も存在します。高い空室率、賃料の下落、リモートワークの定着など、オフィス市場に対する懸念材料は少なくありません。しかし、長期的な視点で見れば、これらの課題は市場の調整過程の一部であり、むしろ新たな機会を生み出す触媒となる可能性があります。
重要なのは、この変化の波を恐れるのではなく、積極的に受け入れ、適応していく姿勢です。ニューヨーク市の歴史は、幾度となく大きな変革を乗り越え、そのたびに更なる発展を遂げてきたことを物語っています。オフィス市場の未来も、この都市の強靭さと創造性によって、新たな高みに到達することができるはずです。
10. 総括
本稿では、ニューヨーク市のオフィス空間の未来について多角的に分析し、主要なポイントをまとめました。
ニューヨーク市は、変化を通じてより持続可能で創造的な都市へと進化していく可能性を秘めています。オフィス空間の未来は、単なる「働く場所」を超え、イノベーションを生み出し、人々をつなぎ、都市の活力を支える重要な要素となるでしょう。
本稿での予測や分析は最新データと専門家の見解に基づいていますが、ビジネス環境や技術の進化は常に変化しており、柔軟な戦略の調整が不可欠です。ニューヨーク市のオフィス市場は「変革と適応の時代」を迎えており、この挑戦を乗り越えることで、世界をリードするビジネス都市としての地位を確固たるものにしていくことでしょう。
記事をお読みいいただき、ありがとうございました。
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