2026年現在、アメリカでビジネスを立ち上げる日本人起業家の数は年々増加しています。
当社は2019年にニューヨークで起業して以来、数多くの日本人起業家の法人設立をサポートしてまいりました。
その中で最も多くいただく質問が「LLC、C-Corp、S-Corp、どの法人形態を選べばよいのか?」というものです。
実際に現地で7年間事業を営み、250件以上のビザ申請サポートを行ってきた経験から申し上げますと、この選択は単なる税制上の違いだけでなく、E2ビザ申請への適合性、将来の資金調達戦略、さらには事業の成長可能性まで大きく左右する重要な決断となります。
本記事では、それぞれの法人形態の特徴を詳しく解説し、皆さまの事業目標に最適な選択をしていただけるよう、実践的な判断基準をお示しします。
アメリカの3つの主要法人形態の基本構造

アメリカの法人制度は、日本と比較して選択肢が豊富で、それぞれに明確な特徴があります。
LLC(合同会社型)の基本特徴
まず理解していただきたいのは、LLC(Limited Liability Company)は、日本の合同会社に近い性格を持つ法人形態です。
設立手続きが簡素で、多くの州では州務長官事務所(Secretary of State)への届出と登記費用50ドル(約7,500円)から500ドル(約75,000円)程度で設立できます。
C-Corporationと S-Corporationの違い
一方、C-Corporationは、日本の株式会社に最も近い形態で、明確な株主構造と取締役会を持ちます。
設立費用は州によって異なりますが、一般的に500ドル(約75,000円)から1,500ドル(約225,000円)程度となり、年間維持費も数千ドル(数十万円)かかることが多いです。
当社がこれまでサポートしたクライアント様の中では、将来的な株式公開や大規模な投資家からの資金調達を視野に入れている企業の90%以上がC-Corporationを選択しています。
S-Corporationは、税制上の選択肢として位置づけられ、実体としてはC-Corporationですが、税務上はパススルー課税(法人税を支払わず、株主が個人所得税として納税)を選択できます。
ただし、重要な制約があります。
S-Corporationの株主は①米国市民または永住権保持者に限定され、②株主数は100名以下、③株式の種類は1種類のみという条件があるため、日本人起業家にとってはハードルが高い選択肢となります。
税制面での徹底比較

法人形態選択において最も重要な判断材料の一つが税制です。
それぞれの課税方式を具体的な数字で比較してみましょう。
LLCのパススルー課税の仕組み
LLCのパススルー課税は、法人レベルでの税金が発生しません。
利益はすべてメンバー(出資者)の個人所得として課税され、個人所得税率は年収に応じて10%から37%の累進税率が適用されます。
例えば、年間利益が10万ドル(約1,500万円)のLLCの場合、メンバーの個人所得税として約22%から24%の税率で課税されることになります。
C-Corporationの二重課税リスク
一方、C-Corporationの二重課税構造は複雑です。
まず法人レベルで21%の連邦法人税が課税され、その後配当として株主に分配する際に、株主の個人レベルで配当所得税(通常15%から20%)が課税されます。
同じ10万ドルの利益の場合、法人税21,000ドル(約315万円)を支払った後、残りの79,000ドル(約1,185万円)を配当として受け取る際にさらに約15%の税金がかかり、実質的な税率は31%程度になります。
しかし、C-Corporationには重要な節税メリットがあります。
役員報酬として受け取る部分は法人の損金として計上でき、個人の給与所得として課税されるため、適切な給与設定により税負担を最適化できます。
当社がアドバイスしているクライアント様の多くは、この仕組みを活用して実質税率を25%程度まで抑えています。
| 項目 | LLC | C-Corporation | S-Corporation |
|---|---|---|---|
| 法人税率 | なし(パススルー) | 21% | なし(パススルー) |
| 個人所得税 | 22-24% | 15-20%(配当時) | 22-24% |
| 実質税率 | 22-24% | 約31% | 22-24% |
| 自営業税 | 15.3% | なし | 役員報酬のみ対象 |
設立・運営コストと経営の柔軟性

実際の設立プロセスと運営コストは、事業の初期段階において重要な判断要素となります。
LLCの設立手続きとコスト
LLCの設立手続きは最もシンプルです。
州務長官事務所への「Articles of Organization」の提出と登記費用の支払いのみで完了し、多くの州では1週間以内に設立できます。
年間維持費も州により異なりますが、ワイオミング州では60ドル(約9,000円)、カリフォルニア州でも800ドル(約120,000円)程度と比較的低額です。
経営面では、取締役会の設置義務がなく、メンバー間の合意により柔軟な運営が可能です。
当社が実際にサポートした日本人クライアント様のケースでは、デラウェア州での起業を選択される方が多く、LLCの場合は設立から事業開始まで平均2週間程度で完了しています。
C-Corporationの設立コストと運営
C-Corporationの設立は、より複雑な手続きが必要です。
「Articles of Incorporation」の提出、株式の発行、取締役会の設置、定款の作成など、複数のステップが必要で、通常1か月から2か月の期間を要します。
年間維持費は州により大きく異なり、デラウェア州では最低175ドル(約26,250円)から、発行株式数に応じて数万ドル(数百万円)まで増加する場合があります。
しかし、C-Corporationには資金調達面で大きなメリットがあります。
複数種類の株式発行が可能で、優先株、普通株の発行により段階的な資金調達が可能です。
ベンチャーキャピタルからの投資を検討している場合、C-Corporation形態はほぼ必須条件となります。
①設立の簡便性。LLC>S-Corp>C-Corp
②運営の柔軟性。LLC>S-Corp>C-Corp
③資金調達の容易さ。C-Corp>S-Corp>LLC
④維持コストの低さ。LLC>S-Corp>C-Corp
E2ビザ申請との適合性と州選択の戦略

日本人起業家にとって、法人形態の選択はE2ビザの費用と取得プロセスに直接影響します。
LLCがE2ビザ申請に有利な理由
E2ビザ申請におけるLLCのメリットは明確です。
移民局(USCIS)は、LLCを「実質的な事業実体」として認めており、適切な投資額(通常20万ドル/約3,000万円以上)と事業計画があれば、問題なく承認されます。
当社がこれまでサポートした250件以上のE2ビザ申請の中で、LLC形態での承認率は98%を超えています。
重要なのは、E2ビザ申請では「投資の実質性」が重視される点です。
LLCの場合、パススルー課税により利益が直接個人所得となるため、投資家本人の事業への関与度が明確に示せます。
これは移民局の審査において、「投資家が事業の中心的役割を果たしている」という重要な要件を満たすのに有利に働きます。
州選択の戦略も重要な考慮事項です。
デラウェア州は「法人の本拠地」として知られ、企業法制が非常に発達しており、特に将来的な訴訟リスクへの対応力が優れています。
フォーチュン500企業の60%以上がデラウェア州で設立されている理由は、裁判所システムが企業法務に特化しており、予測可能性が高いためです。
一方、ワイオミング州は設立・維持費用が全米で最も安く、プライバシー保護にも優れています。
メンバーや取締役の氏名公開義務がないため、プライバシーを重視する起業家に人気です。
ただし、実際に事業を行う州での外国法人登録(Foreign Qualification)が必要な場合があり、結果的にコストが増加する可能性もあります。
当社の経験では、事業規模が年商100万ドル(約1億5,000万円)未満の場合、事業実態のある州での設立が最も効率的です。
まとめ

法人形態の選択は、単なる税制上の違いを超えて、事業の将来性と成長戦略を左右する重要な決断です。
法人形態の選択基準
LLCを選ぶべきケースは以下の通りです。
E2ビザ申請を前提とした事業、初期投資額を抑えたいスタートアップ、家族経営や少数メンバーでの事業運営、年商1,000万円から3億円程度の中小規模事業を想定している場合です。
C-Corporationを選ぶべきケースは、ベンチャーキャピタルからの資金調達を計画している、将来的な株式公開を視野に入れている、複数ラウンドの資金調達を予定している、年商10億円以上の大規模事業を目指している場合です。
当社がこれまで数多くの日本人起業家をサポートしてきた経験から申し上げますと、事業の初期段階ではLLCで開始し、成長に応じてC-Corporationへ組織変更するパターンが最も成功率が高いと感じています。
実際に、当社がサポートしたクライアント様の約70%がこのパターンを選択し、柔軟性と成長性のバランスを取りながら事業を発展させています。
最も重要なのは、皆さまの事業ビジョンと成長戦略に最適な選択をすることです。
法人形態は後から変更可能ですが、初期の選択が事業の軌道に大きく影響することも事実です。
専門家との相談を通じて、最適な法人形態を選択していただければと思います。
アメリカへの移住やビザ取得についてご相談されたい方は、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。


















